なめらかな書き跡

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【感想】「給食のおにいさん」

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給食のおにいさん (幻冬舎文庫)
遠藤 彩見
幻冬舎文庫
2013/10/10
ISBN-10: 4344420896
ISBN-13: 978-4344420892

オススメ度:★★★☆☆

書店をぶらぶらしてたらタイトルが目に入って、「おにいさん」という響きにちょっと惹かれて読んでみることにしました。

シリーズものらしかったので1冊めをさがして、買ってみたのがこの本です。

子供が嫌いなくせに諸事情により小学校の給食のおにいさんをやらなくちゃいけなくなってしまった主人公が子供たちや上司同僚などとの交流をとおして人間的に成長していくという、青春小説(?)です。(※アマゾンの商品説明にはそう書いてある)

全体に、文章は読みやすいです。完読まで3~4時間ぐらい?
外出の時に持っていって帰宅後続きを最後まで読んだので、続きを読みたいと思わせてくれる内容でもあったと思います。

しかし内容に納得がいくかというとちょっと微妙なところ。

冒頭の導入部で拾えた情報は

  • 主人公佐々目は子供がキライ
  • でも生活のために仕方なく1年だけ小学校の給食調理員をすることにした
  • 自分は「料理人」だというプライドが高い
  • 自分の店を開店そうそう火事で失ってしまい挫折している
  • 過去につとめたレストランやビストロでも周囲と衝突が絶えなかった

とまあ、とっても社会不適格者です。才能のある若者にありがちです。
28だったかな?まだまだ青臭くて若いです。

そのうえ、

  • 勤務初日の朝イチに校門で低学年生と目が合っただけで謎の大泣きをされて、それに気づいて飛び出してきた直属の上司に一方的に謝れと責められたあげく問答無用で膝裏に蹴りを入れられて土下座をさせられる
  • アシスタントであるはずのパートのおばちゃんたちに下っ端扱いされてカチンとくる
  • 俺様の美技で華麗に給食をアレンジしてやるぜと意気込んだら塩1グラムたりと決められた量を変更することは許さないと厳命される
  • じゃあ、と材料も調味料も一切変更なしでちょっとだけ調理方法をかえた料理を作ってみせ、保健室のお姉さんには好評だったもんでドヤ顔でいたら子供にはまったく受け入れられずに半分も食べてもらえなくてパートのおばちゃんにも意地悪くそれみたことかって顔をされて赤っ恥をかく

初日の出だしがこんな、プライドにがりがり傷をつけてくる出来事のオンパレード。

で、これが保健室投稿の1年生に出会ったり、ネグレクトを受けていて親にごはんを食べさせてもらえないので給食の残りをもらいにくる子や、激太りしてテレビから姿を消した美少女タレント(しかし主人公はこの子を存在さえ知らなかった)やらの小学生たちと交流を重ね、直属の上司の事情もちょっと知ったりしていって給食への情熱を持つようになって、1年でやめるつもりだったのを結局延長することにする、というところまでが今回のお話なんですが、見た感じ、彼の頑なな心を揺り動かして給食に向かわせる(やや棒読み)出来事は、主に一学期のうちに起こってます。

人の意識とか考え方が3か月やそこらでそんなに劇的に変わるものかなあ? それも、このくらいのちょっとした出来事の積み重ね程度で。
と、思うのです。

中盤、有名シェフを招いて給食を作ってもらう企画に当選したエピソードで、型通りの常識的な給食に真っ向から異を唱える元カノにして今は1店舗を切り回す新進シェフに、もともと同じ意識を持っていたはずの主人公が最初に言われて反発した「栄養や摂取量は決められてるし調理時間も限られてる。学校人数ぶんの大量調理の大変さをおまえは知らないんだから余計なことをしようとするな」を自分でそうと気づかずに主張する側になってたり、やはり企画で少量ではあるものの追加のメニューをたくさん作らなくちゃいけなくなった時に毎日4品を機械的に作ることに慣れすぎてしまっていて昔ならできたはずのイレギュラーな追加に対応しきれなくなりつつあることに気づいたり、意識が高くても認められず「それが決まりだから」という理不尽な圧力に屈して日常に流されてるうちにどんどん感覚が麻痺して鈍麻していく描写なんかはとてもリアルで共感ができます。

だからこそ、彼の心を動かすできごとにそこまでのパワーがあるのか、私はどうもぴんとこない。
それは、作者がどうというより、私が子供が基本的に大嫌いで、子供に接した記憶がほとんどないからだろうとは思います。
私は父の転勤に同行して小学校を日本ではない国で過ごして、それを引きずったせいで大学半ばぐらいまで友達というものがほぼ作れなかったので、日本人の子供というものにほとんど共感が持てないのです。

だからまあ、そこは、そういうものだと飲み込んでスルーすべきなんでしょう。
私が小学生だったころと作者が小学生だったころ、あるいは今の小学生との間にも相当な齟齬があると思いますし。あのころはモンペとかなかったもんね。

文中にあちこち出てくる、さりげない、けれどいかに主人公が子供が嫌いかが伝わってくる表現は非常にうまくてにやりとしました。

「おじいちゃん! おとうさん! おじいちゃん! おとうさん!」

 黄緑色のランドセルを背負った男の子が意味不明なフレーズを絶叫している。 

 これは一番冒頭の部分にあるフレーズですが、ここに「絶叫」を持ってくるのがすごくうまいんですよね。

子供に対して悪意がないなら「よくわからないことを叫んでいる」とかでいいんです。
うるっせーなクソがという気持ちがどこかにあるから「意味不明なフレーズを絶叫」になる。
同じ内容を表すのにも、悪意の有無ってひそかに嗅ぎ取れる。
こういうところが前半にちょこちょこあって、非常に設定に即した言葉選びで気持ちがよかったです(笑)。途中からはほとんどなくなったので、そのへんでも主人公の気の持ちようが変わっていったのがわかります。(作者が意図してるかどうかはわかりませんが)

あとひとつ不満があるのは、直属の上司、毛利の処理というか扱いがすごく中途半端に終わっているところ。
毛利は前のほうにも書いたとおり主人公に勤務初日からケリを入れて強制的に膝をつかせるという屈辱的な扱いをしたところからはじまって、塩味の足りないスープに塩を足したら全部捨てるぞと脅したり、先生の投票によって決まるメニューを作ることになった時、前年のメニューを先生の意見を無視して自分の作りたいものを作ったという理由で先生たちから今年のメニューは主人公が組んでくれと要望された時に今度は先生のほうを買収して自分の作らせたいメニューに組織票を入れさせたり、何かにつけて主人公を阻む、一番身近な敵というか障害として機能しているキャラです。
どうやら彼にもいろいろと事情があって、考えるところがあり、信念もあることは途中から徐々に明らかになって、主人公の案を後押ししてくれたり、ただの敵だけではないことがわかってはくるのですが、結局、完全な味方にもならず、やっぱり敵だったわけでもなく、事情がよくわからないまま本が終わってしまいました。

どうやらこの本は書き下ろしで、2冊めの説明文を読むと評判がよかったのでシリーズ化されたらしいです。
まだ読んでませんが、このあとの本でそのへんも明かされていくんでしょう。
ですが、この本のタイトルは「給食のおにいさん」です。
「給食のおにいさん 1」でも「給食のおにいさん 入学」等の、2冊め以後を意識したタイトルになっているわけでもありません(2冊めは「進級」3冊めは「卒業」4冊めは「受験」とサブタイトルがついてます)。
なので、この話を書いた段階では「売れたらシリーズ化」の予定や打診はあったとしても確定ではなかったはず。

だったら、設定は1冊で完結するような出し方をしてほしい。毛利に関してはとにかく敵、だけど主人公がまじめに食育に取り組む=毛利に同調して行動する部分だけでは主人公の手助けもしてくれる、なんだちょっといいとこもあるんじゃないかというキャラでよかったんじゃないかと思います。
シリーズ化が確定したら、2冊め3冊めではじめて毛利の事情を主人公に知らせて、この先のシリーズで解決していくんだと見せればいい。

でも、サブタイトルがついてない+表4の内容説明にも「シリーズ開幕」的な文言がない=今現在こそ続編は出てるもののこの本が刊行された時点では単発で発行されたはずだった本で、次に引くようなもやっとする謎が残っているのはもやもやします。気持ち悪い。

なので、そこがちょっと惜しいです。

読みやすいですし、とりあえず次巻は買いました。

最後までまとめ買いは、まだしてません(笑)